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ふれあいネットワーク 社会福祉法人 全国社会福祉協議会

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分野別の取り組み

子どもの福祉

(総括)地域における児童福祉施設の新たな役割と課題

倉石哲也(武庫川女子大学 教授)

改正児童福祉法の施行に伴い、児童福祉施設(※児童福祉施設、社会福祉協議会、民間団体を含む。以下、施設等)に期待される役割は転換点を迎えます。今回の検討会でヒアリングの対象となった施設等は、地域において従来の制度に囚われない柔軟で創意あふれる支援を展開されていました。補助金事業を施設等運営の基盤とし、地域の子ども・子育て家庭のニーズに対応すべく独自事業を推進されています。いわば先駆的な役割を果たしていた施設等といえます。報告にある先駆的な事例を参考に、児童福祉施設に期待される役割と課題について 簡単にまとめます。

1.身近な地域における支援の展開~つなぐ・つながる支援~

令和6年度より児童福祉の対象は全ての子ども(※※)と子育て家庭となりました。全ての子育て家庭を対象とするポピュレーション・アプローチとそこから見える養育困難家庭を対象としたハイリスク・アプローチが一体となって実施されます。前者は早期発見・早期支援を目的とした予防的支援、後者はニーズに対応した専門性の高い支援・介入を目的とした対応型支援となります。(※※国の表記でこどもはそのまま。他は子どもを用いる)

市町村単位で設置される「こども家庭センター」を中心に、全ての子育て家庭を対象としたソーシャルワーク機能が展開されるのです。子どもと子育て家庭を地域の施設等につなぐ・つながる支援が展開されるようになります。施設等は身近な相談機関として家庭とつながり、リスクがある相談はこども家庭センターにつないだ後も施設等で支援を継続します。つまり施設等は身近な相談窓口の役割と当事者の受け皿としての役割(居場所等)の両機能が期待されることになります。

2.相談体制の整備~つなぐ・つながる支援~

‘つなぐ・つながる支援’の役割を果たすのが子ども家庭センターと共に施設等です。子ども・子育て家庭から寄せられる相談は正に多様です。相談は子どもや子育てのことを主訴(入口)として開始されます。しかし相談の背景には親や障碍がある家族の介護、不安定な就労、家庭不和、経済的困難、地域からの孤立など様々な困難が存在することがあります。子育て家庭の相談に対応するためには、その家庭が直面している生活上の困難を想定し、つなぎ先の情報等を収集し、あるいは支援を確保する必要があります。取り組み事例から見える‘つなぐ・つながる支援’のための相談体制とは、①各領域の制度施策に関する情報収集、②民間団体の支援に関する情報収集、③人材のネットワーク(顔と顔が見える関係)、④地域が抱える共通課題の共有等が挙げられます。子ども・子育て家庭に向けた支援の実績を持つ施設等が、‘つなぐ・つながる支援’の中核的役割を果たすことができれば市町村を基盤とした身近な相談体制の整備が進むでしょう。

3.広報~情報を届ける

身近な相談先として施設等の情報を地域の子育て家庭に発信する仕組みづくりは喫緊の課題です。アプリ、ライン(メール)等のSNS媒体は子ども、子育て中の親や若者のコミュニケーション媒体の中心です。AIが子育て相談窓口となり、相談内容に対応するサービスを紹介する体制を整備している自治体もありますが、行政や施設等の情報発信機能はその体制が社会の変化に追い付いていない状況です。今後は自治体と施設等が一体となって情報発信体制を整備する必要があります。

4.情報共有の課題

早期発見・早期支援を進めるためには関係機関による情報共有は不可欠となります。「伴走型支援」や「こども誰でも通園制度」はポピュレーション・アプローチとして、全ての子育て家庭が利用対象として想定されています。従って今後は全ての子育て家庭の情報が自治体に集約され、支援や対応を行う施設と情報を共有することになります。しかし個人情報保護の規程に対して個人情報の共有に関する規程は未整備なままで、ルール作りは喫緊の課題です。規程やルールが整備されないと自治体等で集約された情報が施設等と適切に共有されない事態が続くことになります。情報共有の同意を得る手続きを含めて今後の課題となります。

5.エンパワメントの機会

逆境的体験をはじめとする困難を経験した子どもの中には、人生への諦めや自分(の人生)には良いことが起こらないといった否定的イメージに支配されている子どもが少なからずいます。子ども自身が肯定的なモデルを描くことができず、進学や就職のタイミングで上手くいかなくなるケースも少なくありません。進学や就職といった節目(ライフチャンス)で、自身に希望を抱くことができる選択肢(ライフチョイス)が広がるためには、エンパワメントの機会が地域に用意される必要があります。高機能化される施設等がプラットフォームとなり当事者、専門職、支援者等の集合体として地域を基盤とした支援が展開されることを期待します。

6.最後に~こどもまんなか社会の実現に向けて

こどもまんなか社会を実現するためには、子どもと子育てをする親を当事者として、彼らの力を地域に還元する仕組み作りが期待されます。当事者の経験等が地域の子どもと子育て家庭に還元される仕組みは、新たな地域を基盤としたソーシャルワーク機能となるでしょう。

ポピュレーション・アプローチとハイリスク・アプローチが一体となった支援が地域で展開されるにあたり、施設等の先駆的な取り組みが地域の実情に応じて繰り広げられることを期待しています。

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