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ふれあいネットワーク 社会福祉法人 全国社会福祉協議会

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分野別の取り組み

子どもの福祉

子育て家庭に笑顔とやりがいを届けたい~マイ保育園登録事業の取り組みを通して~
(社会福祉法人七尾市社会事業協会 ななおあいじこども園:幼保連携型認定こども園/石川県)

取材時期:2023年7月
取材者:幼保連携型認定こども園常石すくすくハウス 三須 朋子 園長
(全社協・児童福祉施設等による地域の子ども・子育て家庭支援体制の構築に関する検討委員会 委員)

マイ保育園登録事業のモデル園からのスタート

ななおあいじこども園は、石川県のマイ保育園登録事業のモデル園として2003(平成15)年から、県内でもいち早く取り組みをスタートしました。石川県能登地区では一園だけのモデル園でした。

このモデル園として積極的に手を挙げた背景には、当時から全国的に子育ては大変であるというイメージが強くなっていたことを受け、保護者にもっと子育ての楽しさを伝えたいという思いと、これまでも子育て支援に積極的に取り組んできた実績が、この事業に取り組むエネルギーとなったようです。

その後、子育てに疲労感のある保護者が少しでもリフレッシュできるように、何かできることがあるのではないか、かかりつけ医があるようにかかりつけの園があっても良いのではないか、といった願いのもと、生まれる前からの子育て支援として、妊産婦から3歳児までを対象とした本事業の取り組みをこれまで継続的に行ってきました。

2023年7月現在、登録人数は20人、年度末には45人ぐらいになり人数はほぼ毎年同じくらいだそうです。一方、近年、育児休暇を取得する方が多くなり、マイ保育園登録を産休明けから利用する方が増えています。産休中は行政、保健師、児童相談所、家庭支援の方などからサポートを受け、産休明けからマイ保育園を利用できるよう申請を出される方が多いそうです。

この事業のメニューとしては、カード制で一時預かり(半日)を3回、無料で利用できます。その後の一時預かりのリピーターは多く、七尾市は県のカードとは別に独自の一時預かりを無料で利用できるチケットも発行しているので、一時預かりをさらに利用している方も多いようです。半日の一時預かりとは、午前保育に給食付き、もしくは、午後からの方もいらっしゃいます。各保護者の都合に合わせて午前でも午後でもいつでも利用できます。

この制度の特徴の1つに、支援プラン作成があります。保護者にどんなことが親子でしたいか相談に乗ったり、子育てにストレスを感じているように感じた保護者には、一時預かりを勧めたりしながら、保護者と共に子育ての見通しが持てるようにプランを作成していきます。作成に関しては、毎日ではなく不定期に利用される親子の計画をどこまで詳しく作成したらいいのか、詳しすぎても負担になるのではないかなど悩むこともあるそうです。この計画は、行政などと共有することはなく、園での保管となります。

写真その1:保育園の座卓で保育士に相談をする母親と子

写真その2:写真その1と同じ場面

また、登録した子どもがすべて登録園に入園するとは限らないので、入園を勧めるようなことはあえてせず、今の子育ての状態をサポートするといったスタンスを大切にして支援を行っています。

保護者がこの事業を利用するためには、母子手帳を行政から発行してもらうのと同時に、生まれる前から希望する保育施設をかかりつけの園として申請します。

もともと石川県は、子育てに力を入れる県として子育て中の保護者対象の講演会や、子育てに役立つ遊びなどを伝える活動など、楽しさを伝えるさまざまな取り組みをパイロット事業として行っていました。その後、ネグレクトなどの児童虐待に対する危機感と、これまで主流であった生まれてからの子育て支援をもっと前から保護者とつながることを重要視し、母子手帳交付からのマイ保育園申請につながったようです。

このように、石川県が本事業をスムーズにスタートできた要因の1つとして、以前から多くの子育て支援の取り組み実績があり、その連続性のなかで混乱なく始めることができたことは重要であると感じました。

さらに、この事業を開始した2005(平成17)年から、県が子育てコーディネーターという認定資格制度を始め、カウンセリングや子どもの成長発達、子育て支援や保護者支援の基本的な考え方を学び、保育士の専門性をより深くする県主催の研修が参加費無料で2日間開催されようになりました。この研修を保育士資格を有する者が受講すれば、認定を受けることができます。基本的には、この子育て支援コーディネーターが一時預かりのサポートにつきます。現在、ななおあいじこども園では、2名のフリー子育て支援コーディネーターがいるそうです。

また、この事業に対する行政からの補助については、マイ保育園の利用人数に応じて支給されるそうです。

子育て世帯と行政をつなぐパイプ役として

七尾市は、ほとんどの園でマイ保育園を実施しているので、毎月マイ保育園利用について各園から行政に実績報告をし、マイ保育園の登録の園が重ならないように行政で一括管理し、市で何人登録しているか、利用しているかを把握しているそうです。しかし、それ以外の方の把握はわかりづらいようです。

一方、各家庭の訪問も勝手に承諾なしに行うことはできないので、特に、家から出にくい方とのつながりは重要になります。これまでも、この事業を利用されていない方で、双子の育児で家から出にくい方の支援・連携などを行政から相談を受けることもあり、行政の方が直接、該当世帯に声をかけて園にいらしたこともあったそうです。

そのほかに、健診でコミュニケーションの取りにくい保護者が本園のマイ保育園制度を利用しているということを知って、情報共有など連携をとるなど、本事業の実施によって、子育て世帯と行政をつなぐパイプ役としての役目は大きいように感じました。

本園では、子育て支援センターも併設しているので、そこに遊びに来ている保護者がママ友にマイ保育園制度があることを口コミで伝え、それをきっかけに利用される方も多いようです。今までも、来られてからなかなか帰らない保護者に、問題を抱えられているのかな、話したいことがあるのかな、と感じ、担当者と園長が話を聞くというケースもありました。遊びに来た時に相談に乗りながら、問題が出てくるケースの方が多く、子育てではなく夫婦間などさまざまな家族の問題が出てくることもあり、子育てコーディネーターや園長などが内容に応じて相談を受けたこともありました。保護者から発達についての相談を受けたときには、気になるようなら健診で聞いてみるようアドバイスし、行政の相談機関につなげることもあるそうです。

写真:遊ぶ2人の乳児を見守る女性や、七夕準備する3人の女性

写真:仰向けの乳児を見守る2人の女性

写真:2人の乳児と、床に座り会話する、別の2人の女性

コロナ禍での子育て支援

コロナ禍では、園に来ていただくことも困難な時期はあり、「どうしておられますか。なにかあればご相談ください。」などいつでも相談できるようご案内したり、手遊びの絵を書いたり、歌を書いたりして少しでもつながれるようにハガキを郵送しました。

在園児でもなく、マイ保育園に登録していない方からの電話の相談件数も多く、家の中での遊び方についてなど家での過ごし方について相談を受けたこともありました。

園に来れるときには、家で作れる遊べるおもちゃのキットをお渡ししたこともありました。情報発信についても、SNSなどの方法もありますが、あえてはがきは特別感や温かみがあってよいのではないかと思われ、心を込めて現在も郵送されているとのことです。

子育て支援のなかで感じるやりがいとは

物静かで、園に来られてもすぐ帰られる保護者に、都度、根気よく声をかけたり、案内はがきを出したりしているうちに、ふと心を開いてくれることがあると嬉しさを感じるそうです。そういった変化が見られると、不思議にその保護者の子どもの表情も変わってくるという相乗効果が見られることもあり、嬉しさも増すことでしょう。その保護者が、都度、他の保護者の姿も見ながら、学び、感じ取っている様子が見受けられることも、その場を提供している支援する立場としては喜びとなるようです。

マイ保育園の利用により、在園児と共に一預かりを利用する子どもを保育することに対して、現場が混乱することはなく、逆に、異年齢の子どもの遊びを見ながら、その子も学んでいるように感じることもあり、その姿に出会うこともやりがいの一つでしょう。

やはり、マイ保育園と名乗っているのですから、利用しているお母さん、お父さん、子どもみんなが笑顔と元気になれる制度であるように取り組んでいきたいそうです。さらに、マイ保育園の実施施設などが切磋琢磨しながら、保護者の一人ひとりの異なるニーズに敏感になりながら、保護者の要望は何かをキャッチできるようにどの職員にもそのアンテナを持ってほしいと感じておられました。

育児は大変であると思っている保護者が多いなか、本当は育児はやりがいがあるということをわかってほしいという願いも強くもっておられました。

日常を大切にされた、イベントがなくてもいつでも来れるよといった温かみのあるかかりつけ相談機関であることを目指されていることに、これからの益々の取り組みの充実を期待します。

妊産婦からの支援に対する取組と今後の可能性

当初、県は妊婦からの申請を謳い、母子手帳の発行と同時にこの事業申請を勧めていましたが、妊婦にとってマイ保育園申請の意味やメリットが伝わりにくく、現在、七尾市では、出生届を出した時に申請を勧めていることが多いそうです。また、七尾市の世帯層は、核家族、シングルマザーの方と二世帯住宅、同居家族の方が半々で、核家族であっても近くに祖父母が近くに住んでいる方も多いようです。

同時に、妊婦から本事業に申請しておくと、その後の入園のしやすさにつながるのであれば、この事業にもさらに関心が持たれ、申請も増えるのかもしれませんが、能登地区は少子高齢化が進行しているという地域性もあって、七尾市は待機児童がなく、定員に空きがあり、いつでも誰でも入園できるので、入園できないといった心配はなく、焦らず生まれてから保育施設利用を検討するケースが多いようです。

このような現状から、妊産婦からの申請の必要性が低い地域性が見られます。結果的に、妊娠中は、自分の体をいたわることに重きを置き、おなかの赤ちゃんと保育施設とのつながりを求めるケースは実態としては少ないようです。

しかし、そのなかにも、支援を必要とする妊婦にとっては、本当に手厚い支援であり、子育てのしやすさにつながる支援であるのではないかと感じられます。転勤などで県外から来られた方などは、子育てのしやすさをこの地区の良さとして受け止めておられるようです。妊産婦からの支援のメニューの充実が今後のさらなる展望につながると感じました。

一方で、保育施設が、在園児の保護者ではない第一子の妊婦が、どこにどれくらいいるのか把握することは難しいようです。出生届を提出されると、そのお子さんの名前が地元の新聞に載るので、園独自の取組として、地道にマイ保育園制度の利用をおすすめする内容を、ハガキで案内されています。これまで妊婦に対しての発信や把握が困難ななかでも、在園しているお母さんで妊婦の方が数人、第一子の妊婦がたまに園に来られることもあったそうです。そのようななか、妊婦さんの体のことなど特に医療的なことに関しては、専門の医師や助産師の対応の方が多く、なかなか保育施設では対応できないと感じていましたが、可能な限り、赤ちゃんが生まれる前に、お母さんになる気持ちを聞いてあげたり、子育ての楽しさを伝えたりといった取り組みを機会があるたびに行ってこられました。

妊婦からの切れ目のない支援を、今後、さまざまな専門家と連携したり、そのメニューを広げたりすることにより、更に手厚い支援につながるではないかとこの事業の可能性を感じました。ますますこの事業の効果が高まることを期待しています。

また、生まれてからの子どもたちを、各保育施設が定員の空きを活用して、要件無しでどんな保護者でも一時保育を利用できるといったこの制度のスタイルは、まさに、現在国が検討をすすめている「誰でも通園制度」のモデルになる可能性もあると感じました。

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